考えることがある。夢についてだ。
僕たちは、心の奥底に存在する見知らぬ世界に思いを馳せるのが好きだ。夢のような世界で、夢のような相手と、夢のようなシチュエーションをシュミレートする。
もし、普遍的な精神の中にある真に満ち足りた、素晴らしい世界を今の世に構築できたとして、その世界に飛び込んだ人間は何を思うのだろう。
僕だったら、きっと恐怖を抱く。
なぜか。それは今の世界と連続性がないからだ。
人間は、どんな環境であろうと生まれ育った環境を是としてしまう。それがどんなに過酷であったとしても、地獄の業火に焼かれた地であっても、生まれ落ちた“そこ”が我々のホームタウンなのだ。
どんなに不都合な現実からの旅立ちを願っても、現実に生きている限り、その足が現実を踏み締めている限り、ボクたちは現実に適応してしまっているのだ。
あたたかな夢のなかの心地よさのなかにある薄暗い不安感は、現実以外では生きられない僕たちにそなわっている、防衛本能による警告なのである。
夢とは、旅とは、帰るべき場所があってようやく成り立つものなのだ。
僕たちは、いつかは帰らなければいけない。
どんなに楽しい夢も、辛い夢も、醒めなければならない。
0にはじまり、0に還元していくことは、最初から決まっている。